「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」に対する意見

法人・団体名 財団法人 生存科学研究所 医療政策研究会
代表者の役職・氏名 主任研究員 弁護士 神谷恵子
平成20年7月15日

東京大学大学院医学系研究科教授 東京大学医学部附属病院 医師 研究班顧問 矢作直樹
神谷法律事務所 弁護士 主任研究員 神谷惠子
有限会社 秋編集事務所代表取締役 主任研究員 秋元秀俊
医療ジャーナリスト 尾崎 雄
東京女子医科大学病院 医師(神経内科) 小林正樹
北里研究所病院 医師(内科) 竹下 啓
国立成育医療センター総合診療部 医師(小児科) 土田 尚
東京大学医学部附属病院 医師(整形外科) 中島 勧
東京女子医科大学病院医師(心臓血管外科) 西田 博
日本医科大学附属病院医療安全管理部 看護師 長谷川幸子
東京大学医学部附属病院 医師(循環器内科) 山田奈美恵
国立がんセンター がん対策情報センター 医師 渡邊清高

要旨

医療安全調査委員会の実現に大きく踏み出したことに、大局的な観点から支持を表明します。しかしながら、この構想が、試案を重ねるにつれて、届出範囲を絞り、その事実上の目的を医療安全の向上から紛争解決へとトーンダウンした事情は、記憶に留めておかなければなりません。

医療安全調査委員会の創設は、医療事故の真相究明を「Who(だれ)」から「Why(なぜ)」へと根本的に転換する好機であり、このためにたんに紛争解決だけでなく医療の質・安全の向上という国民的課題に応える事業であるという理念を、今一度取り戻すことを願って大綱案に意見を述べます。

医療事故の原因究明にかかわる中立的専門機関の構想は、わが国の医療関連政策としては稀な事例であるが、官主導ではなく、医師の危機感と責任感に支えられて学会主導で進められてきました。平成16年2月に内科学会、外科学会など4学会が設立を求める声明を出し、それに次いで日本医学会基本領域19学会が声明を発表し、医学系学会の総意を集めるかたちで、平成17年9月に、モデル事業が立ち上がって今日にいたったプロセスが、真相究明第三者機関の設立が、他ならぬ医療界の悲願であったことを示しています。その意味で、中立的第三者機関は、医師・医療者を推進役とし、専門家の自律(プロフェッショナルオートノミー)によって支えられるべき事業です。医師は、この中立的第三者機関の主役であって、傍観者であることはできません。そのような観点から、私たちは、主に以下の五つのポイントについて検討することを求め、その他の諸点について十分な配慮を求めます。

  1. 制度の運用において、届出に迷う事象を広く届出ることができる仕組みとする。幅広い届出に対処し、公正な院内調査を担保するために、届出事象のトリアージにあたる初期判定員(メディカルエグザミナー)を置く。
  2. 初期判定員(メディカルエグザミナー)及び合議制による委員会は隠蔽・改竄の疑い、故意など医療事故調査の範囲を逸脱する事案について、警察に調査(捜査)を委ねる。したがって、合議制による委員会に、過失判断の責を負わせない。
  3. 運用において、医師のプロフェッショナルオートノミーを引き出し、支援し、医療現場がそれに委ねることが可能な制度設計とする。とくに医療水準については、医師のピアレビューを尊重する。
  4. 本大綱案は、主に医師その他の医療専門職および医療機関と監督官庁の関係のみが描かれているが、折しも野党民主党より、患者(遺族)の権利擁護に重きをおく法案が発表されている。医事紛争に際して患者(遺族)は、著しい情報格差に苦しむことが多い。立法に際して幅広い賛同を得るためにも、患者(遺族)の権利擁護に配慮した条文を加えることが望ましい。
  5. 厚生行政からの独立性。とくに調査にあたる地方医療安全調査委員会には行政庁から干渉を受けない独立性を強く求める。

*診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業

「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」厚生労働省(平成20年6月)PDF(348KB)

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